短期攻略ファッション史・12・川久保玲

三宅さんによって、
西洋人の服飾観は崩壊させれらました。
ところがさらに、東洋人が乗り込んできて崩壊を押しすすめます。

「グラマラスな肉体も、あくまで相対的な価値観ですよ」

元来洋服は、マッチョ主義者の西洋人の服として発展してきました。
マッチョが至上価値→
ボンキューボンの曲線を強調→
だからパターン(型紙)が重要という流れです。

だいたいヨーロッパは、北にありすぎて穀物があまり実らない。
中世ドイツの麦の収穫率なんか3倍です。一粒蒔いて三粒しか収穫出来ない。
アジアで栽培されていたイネ、お米は200倍以上あります。一粒育てて200粒収穫できる。
それに比べればほぼ収穫ナシと言っていいくらいの量です。
だから穀物はほとんど食べられない。
豊かだから肉しか食べないというよりも、穀物栽培が出来ないから肉ばかり食べる、それが昔のヨーロッパの実態です。
だから昔のヨーロッパは、面積のわりに人口が少ないのです。

肉ばかり食べていれば、当然体はマッチョになります。
マッチョな肉体を誇示する服が発達するのは当たり前です。
はじめにマッチョな肉体があって、それを表現するために、型紙や、生地や、デザインが発達する。

そのマッチョ肉体→マッチョ肉体用の服という西洋人の脳内にできた自動化された思考回路に、
川久保さんは穴を開けました。具体的活動としては、服に穴を開けたのです。そのまんまですね。

そうしたら穴からガスが漏れた。
マッチョ至上主義、
マッチョ至上主義に支えられたファッション観
マッチョ至上主義を前提にしたデザイン
それら全てが、シューっという音と共に漏れてしまって、
しぼんでしまって、残ったのは、価値観の無い世界、「こうあらねばならない」という前提の無い肉体でした。

三宅さんが、服の作り方という外側から行った仕事を、
川久保さんは、内側から、人間の肉体に関する価値観から、
おこなっていったのです。

思い起こせば、
ヴィオネは、体にぴっちりした服を作っていましたが、
それは体の曲線を外から見えるようにするためです。
そのためにヴィオネは、型紙技術の限りを尽くした。
バレンシアガは、ぴっちりとした服ではありませんが、
体の曲線を暗示するように服を作っていました。
デザイン、型紙、素材、裁縫、全ての条件を整えて彼はそれを実現しました。
そういうエンジニアタイプの仕事の、前提の前提になる、
「マッチョな肉体が良いのだ」という価値観全体を、
川久保さんは壊したのです。

ちなみに川久保さんは、元来哲学を学んだ人で、
服飾のトレーニングは受けていないはずです。
ポワレ・シャネルのような、政治家タイプのデザイナーさんです。
彼女が、エンジニアタイプのヴィオネ・バレンシアガの存在意義をなくしてしまう。

くちなし

前回三宅一生さんのところでご説明しました。
政治家タイプのポワレの命脈を、エンジニアタイプの三宅さんが絶つ。
それと逆といいますか、同じといいますか、大変興味深い流れですね。

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