コラム「マリー・アントワネットの宝石」前編

マリー・アントワネットの秘蔵の宝石が200年ぶりに公開されたそうです。
可愛いとデザイナーが騒いでおりました。

マリー・アントワネットは、首飾り事件などで無駄遣いが有名になってしまいました。しかし「王妃が高価な宝石を買って贅沢したから、民衆は生活が苦しかった」などというのは、完全に間違いです。国家財政の規模に比べれば、宝石なんぞはいくら買っても誤差の範囲内です。

ブルボン王朝は、先々代のルイ14世の後半から国家財政としては破綻寸前でした。

次のルイ15世の時に「ジョン・ロー」という、稀代の詐欺師にして史上最大の経済学者、あるいは史上最大の詐欺師にして稀代の経済学者かもしれませんが、どっちでもよいです、その人が大規模な財政離れ業を演じまして、「ミシシッピー会社」というのを立ち上げて、一時期うまくいきました。しかし最後は結局失敗しまして、金の切れ目が縁の切れ目、というわけでその時点でブルボン王朝の命運は終わっていました。その後のルイ16世夫妻の責任は、さほどないのです。

江戸幕府が倒れて明治政府ができたのは、ペリー来航のように西洋列強の軍事圧力が高まり、強力な中央政府をつくる必要が差し迫ったからです。フランスも同じでして、絶対君主といっても統治力が弱かった。国民をひとつにまとめるような政治力ではなかった。

統治力の不足を意識しているルイ14世は、たとえばベルサイユ宮殿をつくって、舞踏会三昧をして、王の力を誇示して、人々の気持ちを自分にひきつけようとした(西洋の王様は多かれ少なかれこういうプレゼン努力が欠かせない存在です。日本の天皇、将軍に比べると生存競争ハードなのです)。

その結果王家の財政が破綻寸前になったのですから、無駄な努力だったのですが、マリー・アントワネットの浪費は14世の努力を踏襲しただけで、彼女の責任ではないです。
「今はこのやり方ではだめだ、もっと新しい事を考えないと」と思えなかったのはそれは彼女の責任ですが。

では「新しい事」とはなにか。

たとえば後年シャネルがしたように、
「価値ある宝石をつけたからといって、それで女が豊かになるわけではない」
と宣言して、
リラックスしたスタイルで民衆に接する、とかすればよかったかもしれません。

短期攻略ファッション史・4・シャネル~宝石ニクソン

(続く)